南極は、地球上で最も厳しくかつ豊かな生態系のひろがる地域の一つであり、氷の海に生き生きと暮らす膨大な数のペンギンやアザラシ、クジラや魚の営みを支えています。この他何十種という南極の生物の命を維持しているのは、何キロにもわたる高い密度の群集をつくって泳ぐ「ナンキョクオキアミ」。小さなエビに似た動物プランクトンです。オキアミは南極の食物連鎖の基礎に位置する生物で、もしオキアミがいなかったら、南極とその周辺の海一帯は荒涼としてしまうだろうと云われています。
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食物連鎖
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南極の命をささえるオキアミの群れ
南極は地球上で最も驚異に満ちた地域の一つ。
極寒の、しかし生命豊かな南極海がとりまくこの氷の大陸は、日本でもよく知られたペンギンをはじめアホウドリやウミツバメのような海鳥や哺乳類(クジラやザラシ他)などの生きもの達の暮らす舞台でもあります。
こんな生きものたちの世界を支えているのは、ナンキョクオキアミと総称されるエビに似た姿をした小さなプランクトン。科学的にはオキアミ科に分類されていて細かく分けると80種類以上もいるそうです。
日本でアミエビの佃煮といって食べるものは体調1-2cmだけれど、ナンキョクオキアミは大きめで、体長約6cmくらいです。
このナンキョクオキアミは:
☆ 世界の多細胞生物の中で最も個体数の多い生物の一つで 、
☆ たんぱく質を分解する最も強力な酵素を作り出せる生き物で
☆ 地球上の海洋生物の中で最も大規模な群集を形成して
暮らしているのです。
最近わかってきた寿命は5~7年で、生涯のほとんどを何キロにもわたる巨大な群れでをつくって行動しています。群れの密度は1立方メートルに30,000匹にもなるといいますから、この群れ居るところが、ペンギンやクジラにとっても餌をとりやすい場所なんですね。
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オキアミに依存する生き物たち
(ペンギン:photo (c) MArk Jones/SeaPics.com, アホウドリ:photo(c) KKevin Schafer/SeaPics.com)
ペンギン:
南極のシンボルともいえるペンギンはオキアミを主な食糧とし、大きく依存しています。たとえばコウテイペンギン、アデリーペンギン、チンストラップペンギン、マカロニペンギン、ジェンツーペンギンなど。
写真は、こどもに餌をあたえるアデリーペンギン(写真:credit MArk Jones/Sea Pics.com)。
クジラ:オキアミはミンククジラにとってとても重要な食糧源になっています 。他にオキアミを捕食する主な鯨類には、一日に4トンものオキアミを食べるともいわれるシロナガスクジラ、それからナガスクジラ、イワシクジラ、夏場になると南極海に餌を求めてやって来るザトウクジラなど。
アホウドリ:マユグロアホウドリ(写真:Kevin Schafer/SeaPics.com)とハイイロアホウドリの食糧の40%はナンキョクオキアミです。
この写真のマユグロアホウドリの生息地の近くでは、オキアミの漁が減っていて、ひなを育てるのが困難になりつつあります。
ミズナギドリ:一般的にミズナギドリはオキアミを主要なエサとしています。彼らの餌に占めるオキアミの割合は種類によって異なるが、体が小さいほどオキアミを食べる割合が高くなるといわれています 。
アザラシ:南極ゾウアザラシ以外の全ての南極アザラシは、オキアミを主な餌としています。オキアミは南極海に生息する1200万頭のカニクイアザラシの主要な食糧で、ヒョウアザラシの食糧の約50%を占めている。オットセイもオキアミを主要な餌としている生物のひとつですが、オキアミが不足すれば、魚やイカを餌にして生き延びることもできます。
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地球温暖化の影響
photo: (C)Patric Rowe/NSF
南極のオキアミは減少傾向にあります。
膨大な資源量によって大きな群れをつくっているオキアミが急に絶滅危惧種になるということではありません。人間のオキアミ漁も、今(昨年実績)のレベルの漁獲量がオキアミの減少に直結しているということでもないようです。
いま、科学者はオキアミの量と海氷の関連性に注目しています。南極は世界の気候変動の影響がもっとも現れやすい地域(ホットスポット)のひとつだといわれています。
南極では過去30年以上の間に気温が大きく上昇し、冬、海が氷に覆われる期間が短くなっているのです。
オキアミは海氷のそばで産卵し、幼生は海氷の下で育ちます。
つまり、海氷の減少は、オキアミにとって危機的なことなのです。
南極の保護管理に関する条約などの枠組みでは、気候変動が南極の環境や生息する生物に及ぼす影響についてこれまで考慮にいれてきませんでした。
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温暖化---南極海のバランスが変わっていく
地球温暖化の影響は、南極では特に激しく現れています。
南極半島の気温は、地球のどの場所よりも、2~3倍早く上昇しました。
海氷も、結氷する期間が短く、薄くなってきています。
地球温暖化によって南極の周りの海に化学的な変化も起こっています。
大気汚染による海水の酸性化は南極も無縁ではありません。
それに加えて、温暖化による水温の上昇や、氷の融解で真水が流れ込んで、塩分濃度が下がっているのです。
その塩分の変化は南極の植物プランクトンに大きな異変をもたらしています…。
南半球の冬(5月~10月)、海氷の下に大発生するケイ藻(植物プランクトンの一種)がオキアミの食糧です。
酸-アルカリ度(pH )や、海水温、塩分濃度が正常であれば、南極の周りの海ではケイ藻が優勢で、南極のクオキアミはこれを主な食糧にしています。
海水が薄められ、酸性化し、温かくなると…、ずっと小型のクリプト藻類という植物プランクトンが優勢になってきます(これはオキアミの主な餌ではない)。
植物プランクトンのバランスがオキアミをはじめとする動物プランクトンのバランスを変え、それがオキアミに依存してきた哺乳動物や海鳥たちの生存条件にも影響を与えています。
写真??Ingrid Visser/SeaPics.com(出典:オキアミが支える南極の生態系 by 南極オキアミ保全プロジェクト 2007)
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南極でオキアミの需要が増えているわけ
ところで、そもそも人間はどのようにオキアミを利用しているのでしょう。
今、オキアミのニーズが最も高いのは、水産養殖です。
この半世紀のあいだに、北半球の漁獲量は減少しています。代わって急成長している世界の水産養殖で餌に使う魚油や魚粉の原料として、オキアミのニーズが高くなっているのです。日本では、養殖用の餌にも使われていますが、レジャー用の釣り餌が多いようです(『水産資源の先進的有効利用法』NTS 2005)。
水産養殖の成長の勢いはすさまじく、すでに世界の魚油の75パーセント、魚粉の45%を消費しているといわれ、10年経つかたたないうちにそれぞれ79パーセントと48パーセントに達する可能性があると予測されています 。実際、「利用可能な魚粉と魚油の全てを10年以内に消費してしまうだろう」と推測する水産関係者もいるくらいです。
そうした消費を背景に、オキアミ資源への期待が高まっているのですね。
魚油(魚油一般)の需要が供給を上回り、価格が上昇してくると、魚油は“ニュー・ブルーゴールド"
と呼ばれるようになりました(「ブルー・ゴールド」とはもともと、貴重な水資源--21世紀には利用できる真水資源の枯渇や独占が紛争を引き起こすといわれる--を指して使われた言葉です) 。ペルー産のカタクチイワシなど、これまで水産養殖産業向けの魚油と魚粉のために取り尽くされてきた多くの魚種に代わる資源として、オキアミに注目が集まっているのです。
オキアミはタンパク質と必須アミノ酸成分を多く含んでいて、また、これまで他の魚種で作る魚油や魚粉では問題だった汚染物質の濃度が低いことも特徴です。オキアミの色素はサケの特徴であるピンク色の天然の発色源になるのでサケ養殖餌としても好ましいとも云いわれています。
また、栄養価が高いので、サプリなど健康食品や医薬品といった産業で製品開発が進められています。
「クリルオイル」などと呼ばれているサプリやサプリ原料もオキアミ由来のものです。
一方、オキアミの集まるところは、良い漁場でもあり、同時に、オキアミを食べて生きる南極の野生生物が餌をとる海域でもあります。そのよなわけで、オキアミをめぐっては、漁船と、野生生物(ペンギン、クジラ、アザラシ、アホウドリ、ウミツバメなど)とは直接の競合関係にあるのです。
では、人が利用をしながら、南極の生態系も守るにはどうしたらよいか? 次回はそのための各国の協力について書きます。
今、オキアミのニーズが最も高いのは、水産養殖です。
この半世紀のあいだに、北半球の漁獲量は減少しています。代わって急成長している世界の水産養殖で餌に使う魚油や魚粉の原料として、オキアミのニーズが高くなっているのです。日本では、養殖用の餌にも使われていますが、レジャー用の釣り餌が多いようです(『水産資源の先進的有効利用法』NTS 2005)。
水産養殖の成長の勢いはすさまじく、すでに世界の魚油の75パーセント、魚粉の45%を消費しているといわれ、10年経つかたたないうちにそれぞれ79パーセントと48パーセントに達する可能性があると予測されています 。実際、「利用可能な魚粉と魚油の全てを10年以内に消費してしまうだろう」と推測する水産関係者もいるくらいです。
そうした消費を背景に、オキアミ資源への期待が高まっているのですね。
魚油(魚油一般)の需要が供給を上回り、価格が上昇してくると、魚油は“ニュー・ブルーゴールド"
と呼ばれるようになりました(「ブルー・ゴールド」とはもともと、貴重な水資源--21世紀には利用できる真水資源の枯渇や独占が紛争を引き起こすといわれる--を指して使われた言葉です) 。ペルー産のカタクチイワシなど、これまで水産養殖産業向けの魚油と魚粉のために取り尽くされてきた多くの魚種に代わる資源として、オキアミに注目が集まっているのです。
オキアミはタンパク質と必須アミノ酸成分を多く含んでいて、また、これまで他の魚種で作る魚油や魚粉では問題だった汚染物質の濃度が低いことも特徴です。オキアミの色素はサケの特徴であるピンク色の天然の発色源になるのでサケ養殖餌としても好ましいとも云いわれています。
また、栄養価が高いので、サプリなど健康食品や医薬品といった産業で製品開発が進められています。
「クリルオイル」などと呼ばれているサプリやサプリ原料もオキアミ由来のものです。
一方、オキアミの集まるところは、良い漁場でもあり、同時に、オキアミを食べて生きる南極の野生生物が餌をとる海域でもあります。そのよなわけで、オキアミをめぐっては、漁船と、野生生物(ペンギン、クジラ、アザラシ、アホウドリ、ウミツバメなど)とは直接の競合関係にあるのです。
では、人が利用をしながら、南極の生態系も守るにはどうしたらよいか? 次回はそのための各国の協力について書きます。
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地球温暖化と南極の生物多様性
みなさま
このブログサイトで取り上げてきた内容をまとめたホームページをつくりました。
http://www.krillcount.jp/
今後はこちら↑のウェブサイトで情報を更新していきます。
まだ、翻訳版なのですが今後充実させていけたらと思っています。
このブログを訪ねてくださったみなさま、ありがとうございました。
管理人
このブログサイトで取り上げてきた内容をまとめたホームページをつくりました。
http://www.krillcount.jp/
今後はこちら↑のウェブサイトで情報を更新していきます。
まだ、翻訳版なのですが今後充実させていけたらと思っています。
このブログを訪ねてくださったみなさま、ありがとうございました。
管理人
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市民セミナー 「地球温暖化と南極の生物多様性」(9/25)
市民セミナー
「地球温暖化と南極の生物多様性」
~生態系を支えるオキアミ保全の視点から~
南極の食物連鎖の基礎で生態系を支えているオキアミは、人類にとっても “残された最大の蛋白源”といわれています。
今、地球温暖化は南極の生態系にどのような影響を及ぼしているのか?
南極のオキアミと生態系の保全の現状は?日本にできる貢献は何か?
専門家の講師から分かりやすく最前線の報告を聞き、共に考えてみませんか?(逐次通訳付き)
日 時: 2008年9月25日 18:30~21:15
場 所: 東京都文京区 文京スカイホール(文京シビックセンター26階)
入場無料
主 催: 南極南大洋連合・南極オキアミ保全プロジェクト
詳細はホームページ(http://www.krillcount.jp)をご覧下さい。
【テーマ1】 地球温暖化と南極への影響
講師: 山中康裕
北海道大学 大学院地球環境科学研究科/研究院准教授
東京大学気候システム研究センター助手を経て現職。
【テーマ2】 南極の生物多様性を支えるオキアミとその保全の最前線
講師:リン・ゴールズワージー 南極南大洋連合シニア・アドバイザー
プロフィール:
1983年からオーストラリア政府の南極科学諮問委員会で12年間南極の環境保全に従事。現在はオーストラリア代表団のNGOアドバイザー。
「地球温暖化と南極の生物多様性」
~生態系を支えるオキアミ保全の視点から~
南極の食物連鎖の基礎で生態系を支えているオキアミは、人類にとっても “残された最大の蛋白源”といわれています。
今、地球温暖化は南極の生態系にどのような影響を及ぼしているのか?
南極のオキアミと生態系の保全の現状は?日本にできる貢献は何か?
専門家の講師から分かりやすく最前線の報告を聞き、共に考えてみませんか?(逐次通訳付き)
日 時: 2008年9月25日 18:30~21:15
場 所: 東京都文京区 文京スカイホール(文京シビックセンター26階)
入場無料
主 催: 南極南大洋連合・南極オキアミ保全プロジェクト
詳細はホームページ(http://www.krillcount.jp)をご覧下さい。
【テーマ1】 地球温暖化と南極への影響
講師: 山中康裕
北海道大学 大学院地球環境科学研究科/研究院准教授
東京大学気候システム研究センター助手を経て現職。
【テーマ2】 南極の生物多様性を支えるオキアミとその保全の最前線
講師:リン・ゴールズワージー 南極南大洋連合シニア・アドバイザー
プロフィール:
1983年からオーストラリア政府の南極科学諮問委員会で12年間南極の環境保全に従事。現在はオーストラリア代表団のNGOアドバイザー。
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食物連鎖
南極は、地球上で最も厳しくかつ豊かな生態系のひろがる地域の一つであり、氷の海に生き生きと暮らす膨大な数のペンギンやアザラシ、クジラや魚の営みを支えています。この他何十種という南極の生物の命を維持しているのは、何キロにもわたる高い密度の群集をつくって泳ぐ「ナンキョクオキアミ」。小さなエビに似た動物プランクトンです。オキアミは南極の食物連鎖の基礎に位置する生物で、もしオキアミがいなかったら、南極とその周辺の海一帯は荒涼としてしまうだろうと云われています。
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南極の命をささえるオキアミの群れ
南極は地球上で最も驚異に満ちた地域の一つ。
極寒の、しかし生命豊かな南極海がとりまくこの氷の大陸は、日本でもよく知られたペンギンをはじめアホウドリやウミツバメのような海鳥や哺乳類(クジラやザラシ他)などの生きもの達の暮らす舞台でもあります。
こんな生きものたちの世界を支えているのは、ナンキョクオキアミと総称されるエビに似た姿をした小さなプランクトン。科学的にはオキアミ科に分類されていて細かく分けると80種類以上もいるそうです。
日本でアミエビの佃煮といって食べるものは体調1-2cmだけれど、ナンキョクオキアミは大きめで、体長約6cmくらいです。
このナンキョクオキアミは:
☆ 世界の多細胞生物の中で最も個体数の多い生物の一つで 、
☆ たんぱく質を分解する最も強力な酵素を作り出せる生き物で
☆ 地球上の海洋生物の中で最も大規模な群集を形成して
暮らしているのです。
最近わかってきた寿命は5~7年で、生涯のほとんどを何キロにもわたる巨大な群れでをつくって行動しています。群れの密度は1立方メートルに30,000匹にもなるといいますから、この群れ居るところが、ペンギンやクジラにとっても餌をとりやすい場所なんですね。
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オキアミに依存する生き物たち
(ペンギン:photo (c) MArk Jones/SeaPics.com, アホウドリ:photo(c) KKevin Schafer/SeaPics.com)
ペンギン:
南極のシンボルともいえるペンギンはオキアミを主な食糧とし、大きく依存しています。たとえばコウテイペンギン、アデリーペンギン、チンストラップペンギン、マカロニペンギン、ジェンツーペンギンなど。
写真は、こどもに餌をあたえるアデリーペンギン(写真:credit MArk Jones/Sea Pics.com)。
クジラ:オキアミはミンククジラにとってとても重要な食糧源になっています 。他にオキアミを捕食する主な鯨類には、一日に4トンものオキアミを食べるともいわれるシロナガスクジラ、それからナガスクジラ、イワシクジラ、夏場になると南極海に餌を求めてやって来るザトウクジラなど。
アホウドリ:マユグロアホウドリ(写真:Kevin Schafer/SeaPics.com)とハイイロアホウドリの食糧の40%はナンキョクオキアミです。
この写真のマユグロアホウドリの生息地の近くでは、オキアミの漁が減っていて、ひなを育てるのが困難になりつつあります。
ミズナギドリ:一般的にミズナギドリはオキアミを主要なエサとしています。彼らの餌に占めるオキアミの割合は種類によって異なるが、体が小さいほどオキアミを食べる割合が高くなるといわれています 。
アザラシ:南極ゾウアザラシ以外の全ての南極アザラシは、オキアミを主な餌としています。オキアミは南極海に生息する1200万頭のカニクイアザラシの主要な食糧で、ヒョウアザラシの食糧の約50%を占めている。オットセイもオキアミを主要な餌としている生物のひとつですが、オキアミが不足すれば、魚やイカを餌にして生き延びることもできます。
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地球温暖化の影響
photo: (C)Patric Rowe/NSF
南極のオキアミは減少傾向にあります。
膨大な資源量によって大きな群れをつくっているオキアミが急に絶滅危惧種になるということではありません。人間のオキアミ漁も、今(昨年実績)のレベルの漁獲量がオキアミの減少に直結しているということでもないようです。
いま、科学者はオキアミの量と海氷の関連性に注目しています。南極は世界の気候変動の影響がもっとも現れやすい地域(ホットスポット)のひとつだといわれています。
南極では過去30年以上の間に気温が大きく上昇し、冬、海が氷に覆われる期間が短くなっているのです。
オキアミは海氷のそばで産卵し、幼生は海氷の下で育ちます。
つまり、海氷の減少は、オキアミにとって危機的なことなのです。
南極の保護管理に関する条約などの枠組みでは、気候変動が南極の環境や生息する生物に及ぼす影響についてこれまで考慮にいれてきませんでした。
↧
温暖化---南極海のバランスが変わっていく
地球温暖化の影響は、南極では特に激しく現れています。
南極半島の気温は、地球のどの場所よりも、2~3倍早く上昇しました。
海氷も、結氷する期間が短く、薄くなってきています。
地球温暖化によって南極の周りの海に化学的な変化も起こっています。
大気汚染による海水の酸性化は南極も無縁ではありません。
それに加えて、温暖化による水温の上昇や、氷の融解で真水が流れ込んで、塩分濃度が下がっているのです。
その塩分の変化は南極の植物プランクトンに大きな異変をもたらしています…。
南半球の冬(5月~10月)、海氷の下に大発生するケイ藻(植物プランクトンの一種)がオキアミの食糧です。
酸-アルカリ度(pH )や、海水温、塩分濃度が正常であれば、南極の周りの海ではケイ藻が優勢で、南極のクオキアミはこれを主な食糧にしています。
海水が薄められ、酸性化し、温かくなると…、ずっと小型のクリプト藻類という植物プランクトンが優勢になってきます(これはオキアミの主な餌ではない)。
植物プランクトンのバランスがオキアミをはじめとする動物プランクトンのバランスを変え、それがオキアミに依存してきた哺乳動物や海鳥たちの生存条件にも影響を与えています。
写真??Ingrid Visser/SeaPics.com(出典:オキアミが支える南極の生態系 by 南極オキアミ保全プロジェクト 2007)
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南極でオキアミの需要が増えているわけ
ところで、そもそも人間はどのようにオキアミを利用しているのでしょう。
今、オキアミのニーズが最も高いのは、水産養殖です。
この半世紀のあいだに、北半球の漁獲量は減少しています。代わって急成長している世界の水産養殖で餌に使う魚油や魚粉の原料として、オキアミのニーズが高くなっているのです。日本では、養殖用の餌にも使われていますが、レジャー用の釣り餌が多いようです(『水産資源の先進的有効利用法』NTS 2005)。
水産養殖の成長の勢いはすさまじく、すでに世界の魚油の75パーセント、魚粉の45%を消費しているといわれ、10年経つかたたないうちにそれぞれ79パーセントと48パーセントに達する可能性があると予測されています 。実際、「利用可能な魚粉と魚油の全てを10年以内に消費してしまうだろう」と推測する水産関係者もいるくらいです。
そうした消費を背景に、オキアミ資源への期待が高まっているのですね。
魚油(魚油一般)の需要が供給を上回り、価格が上昇してくると、魚油は“ニュー・ブルーゴールド"
と呼ばれるようになりました(「ブルー・ゴールド」とはもともと、貴重な水資源--21世紀には利用できる真水資源の枯渇や独占が紛争を引き起こすといわれる--を指して使われた言葉です) 。ペルー産のカタクチイワシなど、これまで水産養殖産業向けの魚油と魚粉のために取り尽くされてきた多くの魚種に代わる資源として、オキアミに注目が集まっているのです。
オキアミはタンパク質と必須アミノ酸成分を多く含んでいて、また、これまで他の魚種で作る魚油や魚粉では問題だった汚染物質の濃度が低いことも特徴です。オキアミの色素はサケの特徴であるピンク色の天然の発色源になるのでサケ養殖餌としても好ましいとも云いわれています。
また、栄養価が高いので、サプリなど健康食品や医薬品といった産業で製品開発が進められています。
「クリルオイル」などと呼ばれているサプリやサプリ原料もオキアミ由来のものです。
一方、オキアミの集まるところは、良い漁場でもあり、同時に、オキアミを食べて生きる南極の野生生物が餌をとる海域でもあります。そのよなわけで、オキアミをめぐっては、漁船と、野生生物(ペンギン、クジラ、アザラシ、アホウドリ、ウミツバメなど)とは直接の競合関係にあるのです。
では、人が利用をしながら、南極の生態系も守るにはどうしたらよいか? 次回はそのための各国の協力について書きます。
今、オキアミのニーズが最も高いのは、水産養殖です。
この半世紀のあいだに、北半球の漁獲量は減少しています。代わって急成長している世界の水産養殖で餌に使う魚油や魚粉の原料として、オキアミのニーズが高くなっているのです。日本では、養殖用の餌にも使われていますが、レジャー用の釣り餌が多いようです(『水産資源の先進的有効利用法』NTS 2005)。
水産養殖の成長の勢いはすさまじく、すでに世界の魚油の75パーセント、魚粉の45%を消費しているといわれ、10年経つかたたないうちにそれぞれ79パーセントと48パーセントに達する可能性があると予測されています 。実際、「利用可能な魚粉と魚油の全てを10年以内に消費してしまうだろう」と推測する水産関係者もいるくらいです。
そうした消費を背景に、オキアミ資源への期待が高まっているのですね。
魚油(魚油一般)の需要が供給を上回り、価格が上昇してくると、魚油は“ニュー・ブルーゴールド"
と呼ばれるようになりました(「ブルー・ゴールド」とはもともと、貴重な水資源--21世紀には利用できる真水資源の枯渇や独占が紛争を引き起こすといわれる--を指して使われた言葉です) 。ペルー産のカタクチイワシなど、これまで水産養殖産業向けの魚油と魚粉のために取り尽くされてきた多くの魚種に代わる資源として、オキアミに注目が集まっているのです。
オキアミはタンパク質と必須アミノ酸成分を多く含んでいて、また、これまで他の魚種で作る魚油や魚粉では問題だった汚染物質の濃度が低いことも特徴です。オキアミの色素はサケの特徴であるピンク色の天然の発色源になるのでサケ養殖餌としても好ましいとも云いわれています。
また、栄養価が高いので、サプリなど健康食品や医薬品といった産業で製品開発が進められています。
「クリルオイル」などと呼ばれているサプリやサプリ原料もオキアミ由来のものです。
一方、オキアミの集まるところは、良い漁場でもあり、同時に、オキアミを食べて生きる南極の野生生物が餌をとる海域でもあります。そのよなわけで、オキアミをめぐっては、漁船と、野生生物(ペンギン、クジラ、アザラシ、アホウドリ、ウミツバメなど)とは直接の競合関係にあるのです。
では、人が利用をしながら、南極の生態系も守るにはどうしたらよいか? 次回はそのための各国の協力について書きます。
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地球温暖化と南極の生物多様性
みなさま
このブログサイトで取り上げてきた内容をまとめたホームページをつくりました。
http://www.krillcount.jp/
今後はこちら↑のウェブサイトで情報を更新していきます。
まだ、翻訳版なのですが今後充実させていけたらと思っています。
このブログを訪ねてくださったみなさま、ありがとうございました。
管理人
このブログサイトで取り上げてきた内容をまとめたホームページをつくりました。
http://www.krillcount.jp/
今後はこちら↑のウェブサイトで情報を更新していきます。
まだ、翻訳版なのですが今後充実させていけたらと思っています。
このブログを訪ねてくださったみなさま、ありがとうございました。
管理人
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市民セミナー 「地球温暖化と南極の生物多様性」(9/25)
市民セミナー
「地球温暖化と南極の生物多様性」
~生態系を支えるオキアミ保全の視点から~
南極の食物連鎖の基礎で生態系を支えているオキアミは、人類にとっても “残された最大の蛋白源”といわれています。
今、地球温暖化は南極の生態系にどのような影響を及ぼしているのか?
南極のオキアミと生態系の保全の現状は?日本にできる貢献は何か?
専門家の講師から分かりやすく最前線の報告を聞き、共に考えてみませんか?(逐次通訳付き)
日 時: 2008年9月25日 18:30~21:15
場 所: 東京都文京区 文京スカイホール(文京シビックセンター26階)
入場無料
主 催: 南極南大洋連合・南極オキアミ保全プロジェクト
詳細はホームページ(http://www.krillcount.jp)をご覧下さい。
【テーマ1】 地球温暖化と南極への影響
講師: 山中康裕
北海道大学 大学院地球環境科学研究科/研究院准教授
東京大学気候システム研究センター助手を経て現職。
【テーマ2】 南極の生物多様性を支えるオキアミとその保全の最前線
講師:リン・ゴールズワージー 南極南大洋連合シニア・アドバイザー
プロフィール:
1983年からオーストラリア政府の南極科学諮問委員会で12年間南極の環境保全に従事。現在はオーストラリア代表団のNGOアドバイザー。
「地球温暖化と南極の生物多様性」
~生態系を支えるオキアミ保全の視点から~
南極の食物連鎖の基礎で生態系を支えているオキアミは、人類にとっても “残された最大の蛋白源”といわれています。
今、地球温暖化は南極の生態系にどのような影響を及ぼしているのか?
南極のオキアミと生態系の保全の現状は?日本にできる貢献は何か?
専門家の講師から分かりやすく最前線の報告を聞き、共に考えてみませんか?(逐次通訳付き)
日 時: 2008年9月25日 18:30~21:15
場 所: 東京都文京区 文京スカイホール(文京シビックセンター26階)
入場無料
主 催: 南極南大洋連合・南極オキアミ保全プロジェクト
詳細はホームページ(http://www.krillcount.jp)をご覧下さい。
【テーマ1】 地球温暖化と南極への影響
講師: 山中康裕
北海道大学 大学院地球環境科学研究科/研究院准教授
東京大学気候システム研究センター助手を経て現職。
【テーマ2】 南極の生物多様性を支えるオキアミとその保全の最前線
講師:リン・ゴールズワージー 南極南大洋連合シニア・アドバイザー
プロフィール:
1983年からオーストラリア政府の南極科学諮問委員会で12年間南極の環境保全に従事。現在はオーストラリア代表団のNGOアドバイザー。
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食物連鎖
南極は、地球上で最も厳しくかつ豊かな生態系のひろがる地域の一つであり、氷の海に生き生きと暮らす膨大な数のペンギンやアザラシ、クジラや魚の営みを支えています。この他何十種という南極の生物の命を維持しているのは、何キロにもわたる高い密度の群集をつくって泳ぐ「ナンキョクオキアミ」。小さなエビに似た動物プランクトンです。オキアミは南極の食物連鎖の基礎に位置する生物で、もしオキアミがいなかったら、南極とその周辺の海一帯は荒涼としてしまうだろうと云われています。
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南極の命をささえるオキアミの群れ
南極は地球上で最も驚異に満ちた地域の一つ。
極寒の、しかし生命豊かな南極海がとりまくこの氷の大陸は、日本でもよく知られたペンギンをはじめアホウドリやウミツバメのような海鳥や哺乳類(クジラやザラシ他)などの生きもの達の暮らす舞台でもあります。
こんな生きものたちの世界を支えているのは、ナンキョクオキアミと総称されるエビに似た姿をした小さなプランクトン。科学的にはオキアミ科に分類されていて細かく分けると80種類以上もいるそうです。
日本でアミエビの佃煮といって食べるものは体調1-2cmだけれど、ナンキョクオキアミは大きめで、体長約6cmくらいです。
このナンキョクオキアミは:
☆ 世界の多細胞生物の中で最も個体数の多い生物の一つで 、
☆ たんぱく質を分解する最も強力な酵素を作り出せる生き物で
☆ 地球上の海洋生物の中で最も大規模な群集を形成して
暮らしているのです。
最近わかってきた寿命は5~7年で、生涯のほとんどを何キロにもわたる巨大な群れでをつくって行動しています。群れの密度は1立方メートルに30,000匹にもなるといいますから、この群れ居るところが、ペンギンやクジラにとっても餌をとりやすい場所なんですね。
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オキアミに依存する生き物たち
(ペンギン:photo (c) MArk Jones/SeaPics.com, アホウドリ:photo(c) KKevin Schafer/SeaPics.com)
ペンギン:
南極のシンボルともいえるペンギンはオキアミを主な食糧とし、大きく依存しています。たとえばコウテイペンギン、アデリーペンギン、チンストラップペンギン、マカロニペンギン、ジェンツーペンギンなど。
写真は、こどもに餌をあたえるアデリーペンギン(写真:credit MArk Jones/Sea Pics.com)。
クジラ:オキアミはミンククジラにとってとても重要な食糧源になっています 。他にオキアミを捕食する主な鯨類には、一日に4トンものオキアミを食べるともいわれるシロナガスクジラ、それからナガスクジラ、イワシクジラ、夏場になると南極海に餌を求めてやって来るザトウクジラなど。
アホウドリ:マユグロアホウドリ(写真:Kevin Schafer/SeaPics.com)とハイイロアホウドリの食糧の40%はナンキョクオキアミです。
この写真のマユグロアホウドリの生息地の近くでは、オキアミの漁が減っていて、ひなを育てるのが困難になりつつあります。
ミズナギドリ:一般的にミズナギドリはオキアミを主要なエサとしています。彼らの餌に占めるオキアミの割合は種類によって異なるが、体が小さいほどオキアミを食べる割合が高くなるといわれています 。
アザラシ:南極ゾウアザラシ以外の全ての南極アザラシは、オキアミを主な餌としています。オキアミは南極海に生息する1200万頭のカニクイアザラシの主要な食糧で、ヒョウアザラシの食糧の約50%を占めている。オットセイもオキアミを主要な餌としている生物のひとつですが、オキアミが不足すれば、魚やイカを餌にして生き延びることもできます。
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地球温暖化の影響
photo: (C)Patric Rowe/NSF
南極のオキアミは減少傾向にあります。
膨大な資源量によって大きな群れをつくっているオキアミが急に絶滅危惧種になるということではありません。人間のオキアミ漁も、今(昨年実績)のレベルの漁獲量がオキアミの減少に直結しているということでもないようです。
いま、科学者はオキアミの量と海氷の関連性に注目しています。南極は世界の気候変動の影響がもっとも現れやすい地域(ホットスポット)のひとつだといわれています。
南極では過去30年以上の間に気温が大きく上昇し、冬、海が氷に覆われる期間が短くなっているのです。
オキアミは海氷のそばで産卵し、幼生は海氷の下で育ちます。
つまり、海氷の減少は、オキアミにとって危機的なことなのです。
南極の保護管理に関する条約などの枠組みでは、気候変動が南極の環境や生息する生物に及ぼす影響についてこれまで考慮にいれてきませんでした。
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